さかなの調理

ゲームの感想をだらだら書きます

12RIVEN 感想

「infinityに続く」integralシリーズ第1作と銘打たれたが後が続かなかった作品。

各所での評価の通り、伏線やタネ、キャラの魅力、ストーリーテリングとあらゆる点がEver17に及ばない印象。ただ、個人的には別の意味で収穫があった。

以下、infinityシリーズを含めたネタバレをしているのでご注意ください。





鳴海→錬丸→インテグラルの順でクリア。

Never7Ever17を既プレイ(Remember11はやれてない)で今に至るのだが、前2作で話は面白いけどここは引っかかるなあ…という点が抽出されていた。

トリックについては、SFに疎い私でも引っかかることはそこそこあったのですが、トリックの矛盾とかは発売当時に出たサイトでずいぶん言われてることだし、Ever17感想に書いた通り私が苦手としていたinfinityシリーズのキャラの癖がてんこ盛りで逆に笑えるぐらいだったのでこの記事ではキャラ描写やシナリオ運びについて書きます。


結論から言うと、打越作品をもう手に取らない決意が固まりました。打越さんってドラクエⅤなら断然フローラ派だしバリバリのハーレム容認派で、世の男性オタクのマジョリティはまあそっちに近いとは思うのですが、それにしてもこんなにも強気女性と主人公以外の男性を魅力なく書ける人珍しい。そういうキャラの良さが理解できなくたって成功してる他作家のキャラの真似はできるだろ…。

なおときメモ4の感想群を見ていただければわかるように私は強気で出しゃばりな女の子が好きだし主人公一強は地雷です(そしてビアンカ派)。

キャラ描写については感情がとにかく乗らないということに尽きる。Never7の恐喝主人公や沙紀がヒステリー気味になってるシーンとか、Ever17のココの脱線シーンみたいなのがほぼ全ての登場人物に当てはまる感じで、特にダブル主人公がふたりとも瞬間湯沸かし器なのはキツかった。錬丸さん主人公の肩書きなきゃただのチンピラだからね…

些細なことにキレて大声出したりつまらないギャグでふざけてることが多いためキャラへの萌えや共感が全く盛り上がらず、鳴海ルートで親子がどうの言い出して迫真の感動モードになったときはあまりの感情移入できなさにゲラゲラ笑ったし、スカイツリーの上での決戦は読んでるだけで恥ずかしくなって◯ボタン連打で乗り切りました。

強気スキーからしても鳴海はやはり魅力的とは言い難いのですが、主人公として美味しいところは錬丸が全部持って行き彼氏は淑やか美女の自我に盗られ、唯一彼女を1番に考えてくれる親友はトゥルーエンドでも死んで帰ってこないという散々な状況を見せられると判官贔屓が発動します。鳴海と大手町はエヴァのミサトと加持がモデルなんでしょうが、ああいう関係の良さが理解できないなら入れるなという感じです。実を言うとおんぶシーンでは中の人の演技もあって「おっ」と思ったのですがその後フォローどころか決着すらつかなくて愕然とした。

彼女の分身であるマイナについては、ほとんど唯一暴言吐かない大人しい女性キャラだから相対的に良くは見えるけど、持ち上げ方が恣意的すぎるしオタサーの姫みたいで白けました。しかも結局マイナは錬丸に矢印向けてる訳でね…性格だけ見るとEver17の不遇ヒロインである空さん(ポジ)へのフォローかなとも思うのですが、結局主人公はミュウに行ってるのでそうだとしても不十分。


あと居酒屋でおっさんが言ってるような下ネタがとにかく多い上にただただ下品なだけで意味がないのも辛い。これは上のマイナの好待遇とも関係するのですが全体的にミソジニーがキツ過ぎ。チサトが錬丸に押さえつけられるところ、不自然なほどの恫喝選択肢や強気な態度で性格付けされる一方トゥルールートになると急に大手町にすがる弱い女になる鳴海、男性主人公である錬丸がミュウとメイを超えるチート能力で一人勝ちすることなどなど枚挙に暇がないですが、要するに「女が男に歯向かっても勝てるわけないしそういう生意気な奴は性的にも価値がない」という考えがゴリゴリに見えて女性プレイヤーとしては大変厳しいものがありました。

そして錬丸以外の男性キャラもマッチョイズム全開で活躍しているかというとそんなことはなく…今作で最も不憫なのは間違いなくメイさんだけど、黒幕感たっぷりに登場しながら全てのネタばらしをエピローグに投げられた大手町やキャラデザはじめ何もかもが雑なボスの扱いにも涙を禁じえない。そして中の人の無駄遣い。

Ever17の感想でも涼権骨折り損について書きましたが、これまでぬくぬく生きてきたポッと出に美味しいとこ総取りされたメイさんももちろん不憫だし、今作は登場人物にそれを言わせてるところがまたヤラシイ。しかもミュウがメイより錬丸を頼るのにイラついてミュウをボコるというDV加害者の思考回路としか思えない行動原理でフォローしたつもりになってるので本当に倫理観が絶望的だなと思います。俺TSUEEEEできれば主人公がチンピラでも構わないと考えてるライターだし無理もないのか…


文章も長く難解な説明台詞と笑えないギャグ・下ネタ、ダラダラ喋ってる時間がないときに限って挿入される謎に詩的なディテール描写、バトルシーンのコロコロコミックみたいな語彙が絡み合っておりカオスでした。infinityシリーズからトリックの巧妙さを引くとこういうことになるのか〜という感じです。

Ever17に比べると日常シーンが少ないのでテンポは良く、ADVにありがちな中だるみがなかったのは個人的に良かったです。ただその分ボリュームは少ないしトリックの雑さやキャラ描写のペラさもあるので客観的な長所とまでは言えないかな…

推理モノを遊ぶときにはだいたい思考停止状態でやってるのもあって、ミュウの髪色や冒頭のシーンの日付が違うことは明確にされるまで気づいておらず、普通に驚いたし楽しめました。ただどっちもEver17のリサイクル感が否めないので、やはりスゴイというところまではいかないなあという印象。

これも4次元視点の焼き直しになるけど0.5秒早い識閾下を支配するのがプレイヤーでキャラクターはそこから自由になろうとする→選択肢の指示をきかなくなるみたいなたたみ方は若干期待していたのに、結局Ψに収斂していったのは個人的に残念でした。

私的にはトリックは絶賛するほどでもないけどなるほどなーと思いながら読めて、キャラ描写と台詞回しは論外という感じです。地雷ライターの確立と、あまりにinfinityシリーズで嫌だと思った部分のオールスターだったので今作に関わっていない中澤工さんがディレクションしてる作品は楽しめるのではないかと思えたのが収穫。


声優さんについては、遊々、メイ、真琴の人が特に良いなあと思いました。遊々とメイは振れ幅が広く(特に上でカオスと書いた4パターンの文体(口調)を全てひとりで喋らないといけないメイ)、真琴は葛藤や繊細さの表現が巧かった印象。

あと大手町と鳴海はあまりにもテキストが声の魅力を殺してて中の人達がご活躍されてる別ゲーを無性にやりたくなった。個人的に佐藤利奈さんはアクティブなトーンのほうが断然好きなので鳴海ボイス聞こえてきたときはそれでも嬉しかったです。

ボスの中の人はNever7から数えてもぶっちぎりに豪華な人選ですが、本人比ではいまいちだった。ハードボイルドとは程遠いシナリオやキャラデザが雑なのも大きいのでしょうが。


グラフィックは強いて言うなら鳴海編の人のほうが好みですが30点と35点という感じです。シリアスかつ動きのないシーンで東映朝アニメの中割みたいな横顔出てきたのには笑った。


そんな訳で前評判通りイマイチという残念なゲームでした…キャラの嗜好が私と真逆の人ならそれなりに萌えられるかも? 

次は落ち着いた作品がいいなあということでセカンドノベルをやります。ときメモ4も再開しなきゃ….