さかなの調理

ゲームの感想をだらだら書きます

セカンドノベル 〜彼女の夏、15分の記憶〜 感想


夏が舞台のゲームを夏にやることの意義を感じつつ、業の深い季節だと思った。文句なしに明るい季節だからこそその陰の不安定さや感傷が際立つというか。夏がテーマの作品は夏を終わらせることがベストエンドになるものが多い気がするのですが、本作では彩野さんの症状が治らないため事実上「夏が終わる」ことは永遠にない。その点が謎の解けることのないこの作品の特徴とも重なっていると思います。

以下ネタバレするのでご注意ください。




この作品の評価は重大な情報を提示しつつも語っていたほぼ全てのキャラクターが事実を言っているとは限らないという「信頼できない語り手」、その上で結論が作者から提示されない『藪の中』みたいな話を好めるかどうかにかかっていると思います。あと「セカンドノベル」的には直哉に肩入れするかと千秋を好ましく思うかも大きい。

個人的には真相を推理すること自体は好きだし、気になるところはちょいちょいありつつも物語としてはしっかりしてて面白いなあと思いました。ただ、システム上備えておくべきであろう機能がないことで「真相は自分で考えろ」という最後の指示が腑に落ちない、不誠実なものに感じられてしまい、クリアから一夜明けてモヤモヤしている次第です。

この機能とは見返したいシーンを即座に再生できるシステムで、例えば前記事で感想を書いたinfinityシリーズ+12RIVENでは標準装備でした。伏線を回収することやトリックが作品の根幹にあるゲーム、特に今までに語られていたことをもう一度読む必要のある本作では必須といっても過言ではない機能がこのゲームにはありません。

意図的に入れていないのか、予算や時間など何らかの都合で入れていないのかは判断がつかないですし、作中で大半の物語を作っている彩野がそれまでの物語を総覧できない設定に則ってはいるのですが(物語を文字どおり書き換える様子が再現されてるのはゲームならではだと思う)、この辺りの不便さが作品そのものの投げっぱなし感を強めている気がします。EX2後は閲覧可能とかにして欲しかった。


彩野の生きるために本能的に蓄積される記憶、事故前のものについてもところどころある記憶の空白(今の彩野がどこを覚えていてどこを忘れているのか)など読み手の裁量でどうとでも利用できる設定が多く、作中で事実とされている範囲が極めて可変的なのも私的には据わりが悪かった。

彩野自身の意思や感情によって物語が左右されるように、プレイヤーが誰を贔屓するか、どういう真相であって欲しいかがセカンドノベルに影響する、という構図はよくできていると思います。S7のような直哉中心の展開を良しとする人は由加里先生すら今は直哉のことが好きであり、彼は葛藤こそあれ最後まで彩野を支える決意をした人物だと考えるし、逆に彩野は直哉をずっと好きだったという前提から否定し、意図的に彼女の好意を操作した挙句最後は千秋に鞍替えする結構なクズに仕立て上げる人もいるでしょう。両方ともありえると言えるところがこの作品のすごいところです。

S7を提示した上で後にそれをひっくり返して主人公への信頼度を下げる(ただしそれを示唆する台詞に固有名詞やボイスは抜き)辺りはアンチ主人公ハーレムマンとしては良いところでもあるのですが、こんなに不穏な要素出しといてぼかすのかよ! という落ち着かなさがあり…この辺は私にバッドエンドやビターエンドへの耐性があまりないのも影響してます。

この文章を書くにあたって真面目に私的セカンドノベル考えてみたりもしたのですが、想像以上にまとまらなかったのでやめました。なるべくユウイチに花を持たせたい派です。

結局EX2のifサクラルートとラストCGから展開される「飛び降りや記憶の保たない女性云々のストーリーは実は回復したサクラが創作して文化祭に出した小説であり、現実にはユウイチも生きていて皆仲良くやってる」説を推しています。唯一「秋」にたどり着ける解釈だし何より後味が良い。

しかしあのラストCGでは直哉らしき人だけが制服じゃなくて5年後の社会人仕様なのが気になる。やはり完全に綺麗にオチをつけることはできないという……


読者の判断に委ねるといえば聞こえはいいけれども、このゲームぐらい色んな要素がぼかされると、作り手が創作に対して負う責任をプレイヤーに肩代わりさせてるようにも思える。最近でも話題になった家出少女の扱いや薬絡みの描写がわかりやすいですが(どちらもこの手の作品にしてはだいぶまともではありますがそれでも)、登場人物やストーリーの倫理性、それらに作者のどういう考えが反映されているかといった点が「人それぞれ価値観や結論は違うよね」みたいな万能フレーズで片付けられてしまうのはな〜…これにエピソードを見直しづらい仕様が合わさって、逃げの姿勢をとっているように見えてしまう。

某巨大掲示板のスレも見たのですが、あまりに解釈の自由度が高いために異なる意見のすり合わせが難しくなってて不毛な印象を受けたのも大きいです。上で挙げた評価点と表裏一体な部分ではありますが。


その他、誰が相手でもデート先がファーストフード、プール、夏祭り、プラネタリウムで固定されてるところなどがいかにも娯楽少なめな郊外の高校生というリアリティがあって良かったです。これといって不自由はしないんだけどどこか閉塞感のある感じが終わらない夏の背景として良いなあと思う。誰がどこに行ったか(行かなかったか)を解釈の材料にするのも面白い。


ボイスが重要な演出になってる部分やあえて音声を入れてない部分があるなどボイスONプレイが推奨される本作なのですが、かなり大事な主人公のボイスが棒気味かつ爽やかさに欠ける印象で残念でした。お父さんぽいというか、少なくとも17〜22歳の声ではない。

由加里先生は色っぽくて好きでした。高校彩野を除いて大人しいキャラばかりなのでテンポがゆっくりめなのと再生までのラグが多いのが気になった。


キャラデザとCGはかなり良いと思います。媚びすぎず生々しさの少ない絵で重いシナリオとの相性が抜群だった。

いかにも片手間にデザインした感のある、恋愛対象外で人の良さそうな友人キャラって見た目のユウイチが教師と付き合ってる上に作中で最も掴めない存在という意外性が好きです。先生とのキスCGはとにかく頻繁に出てくるのでもう少し気合い入れて描いて欲しかったな……というぐらいで彼も基本的には丁寧に描かれてるし、もちろん女性キャラは魅力的(千秋のデザインが特に好きです)。個人的には男女問わず肉付きがリアルなのが萌えポイント。


私はストーリーを掴めないことに恐怖を感じるタイプなのでもやもやしましたが、ノベルゲームの特長を活かしており雰囲気もディテール描写も良く、真相を読み手の想像に任せる話が好きな人にはおすすめできるゲームでした。

次は何にするか未定ですが、明るいゲームになると思います。