さかなの調理

ゲームの感想をだらだら書きます

ラストウィンドウ 真夜中の約束 感想


ウィッシュルームの続編にしてCING最後の作品。会社が生きてたらさらに続いてたシリーズだと思うのですが、今のところこれが最終作になります。

前作でかゆいところに手が届かなかった部分は改善され、ストーリーはより複雑になっています。理不尽に感じたところもありますが前作以上に楽しく遊べました。

あとレイチェル派としては大変美味しいゲーム。

以下ウィッシュルームも含めたネタバレをするのでご注意ください。




前回同様、いわくつきの建物の中をハイドが駆け回り、人々との交流を通して謎を解き明かすゲーム。ホテルに行きあった約10人を一夜で問い詰めていた前作と違い、今作はハイドの自宅アパートが舞台で期間も1週間なので比較的無理のないスケジュールで動いていました。前作同様淡々とした話運びで、感情の動きや登場人物の重い過去も一歩引いたところから見ているのが良かった。

オチの話になるのですが、本作では元敏腕刑事で現在は犯罪撲滅を謳いロス市長選に立候補してるヒュー・スペック(作中ではテレビや伝聞のみでの登場)が実は犯罪組織とつるんでいたことがハイドの父の死をはじめ過去の因縁の多く起点になっています。最終的にハイドはスペックを告発できるだけの証拠を発見し、彼に煮湯を飲まされたマンション住人のレイバー(この人も元刑事)にそれらを渡します。レイバーはまず間違いなく行動を起こすのですが(本人がそう言ってる)、作中でスペックが失脚するシーンは明確に描かれず、市長選には負けたけどこれからも市民のために頑張ります! 的な報道の途中で彼が裏取引に関わっていた盗難宝石の発見が臨時ニュースとして入り、汚職発覚の示唆となるところまででゲームは終わります。勧善懲悪的にスカッとさせないことで、謎が明かされたところで気持ちまで片付く訳ではなく自分の感情とは長く付き合っていかなければならないというハイドの出した結論に説得力を持たせていて良かった。

以上のように本編はグッドとビターの間ぐらいの終わり方をしていますが、小説のエピローグではディランがナイルに消されることもハイドの存在をチクることもなくあっさりバーテンに進路変更していたり、結構甘いところもあります。前作含めナイルは末端を泳がせすぎだし、ダニングの娘も元気そうだったし、この分だとグレイスもブラッドリーもどこかで生きてると思う。私はそういうところも好きですが、硬派というには緩いところが多めです。


システムはちょこちょこ進化してて、画面のどこをタッチしても会話が進むところとか来客・電話・ポケベルへの対応がしやすくなったところはありがたかったです。が、相変わらず歩くのは遅いし次の行動のヒントはその場限りで1番かゆいところが治ってなかった。ホテル・ダスクが横に広い建物だったのと対照的にケイプウエストは縦に広く、日に1〜4階を何往復もするのですが、1番多く出入りする自室が階段と反対側の端にある上にエレベーターも乗るたびにアニメーションが発生するので個人的には移動ストレスが前作以上に高かったです。エレベーターについては雰囲気作りやラストのために必要だったのはわかるんだけどもう少し簡略化できなかったのか…

前作より謎少なめ追及多めでしたが、バランス的には今作がちょうど良いと思いました。特にウィル宅侵入は前作の地下室の難易度を適切にした感じで面白かった。追及も最悪何回かやり直せばクリアできる程度で程よい手応えがありました。

最後の謎だけはちょっと不親切だと思ったし自力では解けなかったのですが、あまり暗号に詳しくないのでパズルとしてどうなのか? というところはわからなかった。総合的には楽しかったです。


前作より登場人物の役割や出番にメリハリがあって、終始ストーリーに絡んでくるワケありな人とあくまで日常の延長線上としてとっている行動が結果的にストーリーを動かす普通の人に二分されている印象でした。だからなのか、全員の行動原理や事情が明らかになった前作に比べるとハイドにとって理解しがたい存在のまま退場する人物が多かった気がする。

人物への愛着は前作のほうが湧きやすく、こっちは推理ADVの王道で人間関係としてもリアルです。この辺りは個人の好みによると思うけど、私はどちらかというと前作派。

ストーリーはハイドやカフェ親子、ハイドの母含め3人いる未亡人、ベティの恋愛の顛末…など出来事の質を問わず「一度倒れたところからどうやって起き上がるか、そのときできた傷とどう向き合っていくか」というところが共通していたと思う。私は不格好でも前向いて生きていこうとする人の姿に美しさを感じるので好きでした。個人的に未亡人って「未だ亡くなってない人」といつまでも死んだ旦那に女性を縛りつける嫌な単語だと思っていて、大家さんは過去を吐露することで、マリーは高飛びすることでそういう負担が多少なりとも減ったととれるので、やっぱり優しい話だと思います。

ただ良くも悪くも前作と着地点が似ているところが多く、フランスから留学してきたお坊ちゃんのシャルルがラストで「実家に頼らず自活する」と言い出したときはまたこのくだりか?? と思いました。ライターのこだわりなのでしょうか。


他に印象的だったのは出番少なめなキャラにも自室のグラフィックがちゃんと用意されていて、細かい部分まで住人の性格に合わせて作られているところで、テキストで語られる部分以外に人間味を感じさせる描写が多くやってて楽しかった。前作より遊び要素が増えたとはいえ基本的にあまり寄り道はしないのですが、こういう端々からサブストーリーを脳内で展開するのも面白い。

あと屋内を探索する際に棚や箱の中身などは3DCGではなくイラストで表現されているのですが、塗りが昔の洋画のポスターのような質感でとても良いです。人工と自然の間にあるような感じ。


キャラデザは相変わらずとても上手いです。不健康な生活送ってるわりにいい身体してるハイド、ちょっとお洒落になったレイチェル、表情が桁違いに豊かなミラと続投組も魅力的ですが、新顔達の破壊力も凄い。特にニコールはあらゆる表情が可愛いという末恐ろしい看板娘です。配膳でウインクされたときはあざとさすら感じた。

女性陣だとマリーのデザインが特に好き。彼女は30代の未亡人で正面から見るとやつれてる感が拭えないのですが、横顔は大変綺麗に描かれています。疲れているけど顔立ちは整っていること、決して派手ではないのに人を惹きつけるところが的確に表現されてる。

男性陣ではディランのあからさまに不快ではないけど監視行動が絡むと途端に不気味になる特性と冴えない見た目の相乗効果が印象的でした。本作の相棒ポジションのスティーブもルイスとはまた違う憎めない造形で、引き出しの多い人だと思います。


そしてレイチェルについて。

前作に比べて互いにデレ度増し増しでライターが舵を切った感があった。ミラと一緒にいるところをからかわれるところもあるしハイドが目に見えて優しいのはミラなので確定とまではいえませんが、それでも恋愛の相手としてはレイチェルを意識してると考えていいぐらいの描写はあったと思います。

前半とか電話するたびに駆け引きめいたやりとりしててこんなに出血大サービスで良いのかと戸惑った。ミラが友情出演レベルの出番で圧倒的ヒロイン力を発揮するのでこれぐらいでやっと互角なのかも。

ハイドが本編で発する最後の台詞が「わかってるよ、レイチェル」なぐらい鬼電してくるだけあって彼女はかなり積極的ですが、意外とハイドからのアプローチもあって良かったです。モーニングコールがエドだったときの誤爆が特に好き…というか寝起きにああいう言葉が出てくるような相手となぜ付き合っていないのか不思議。

マリーの話になったときに焦るレイチェルは可愛かった。ワケあり女性が好み(ルイス談)というハイドのタイプを知っているからこその反応ではないでしょうか。ここは単体でも美味しいですが、ミラに対しては嫉妬とか微塵もなく、むしろ「彼女はあなたを1番信用してるのよ」ともっと丁寧に扱ってやれというようなことを言うのと比べるとふたりにとってミラは娘みたいなものということがわかるのでそういう意味でも重要な台詞。

ベティがレックスを経てスティーブを選ぶときの台詞も示唆的でした。しかしハイドは恋だの愛だの君を守るだの恥ずかしげもなく言ってるくせにエドとレイチェルに対しては全然素直じゃないな……

というわけでライターさんに足を向けて寝られないぐらいてんこ盛りな内容でしたが、お互い余裕かまし過ぎて結局踏み出せずどっちかの今際の際に初めて「あなたがいたから人生楽しかった…」とか手を握って終わる可能性も捨てきれないので油断できない。続編クラウドファンディングとかしてくれたら出資するんだけどなあ。


2作やって思ったのは、脱線や中だるみがなくてほとんど本筋しか追ってないのに人物の人柄や魅力を十分に描けてるシリーズだということでした。これは限られた容量でストーリーを書ききらないといけなかった黎明期のADVに携わっていた人が作ったからこその特長だと思う。

過度に踏み込まないけど突き放しもしない距離感は貴重で心地よかった。これからも折に触れて遊ぶと思います。


次は気分をガラッと変えて『わがままファッションガールズモード よくばり宣言!』です。あと最近やっとVitaを入手したのでそっちも開拓していきたい。