さかなの調理

ゲームの感想をだらだら書きます

ウィッシュルーム 天使の記憶 感想


今年で発売10周年になるDS推理ADVの名作。発売当時に買ったんだけどクリアせず放置してて(セーブデータ見たらチャプター8で止まってた)、改めて最初からプレイしました。

ゲームの難易度、物語ともに硬すぎずぬるすぎず、落ち着いた雰囲気を楽しめた。遊んだ人はミラ派とレイチェル派に分かれると思うのですが私は後者です。

以下ネタバレしますのでご注意ください。




私はコマンド選択式推理ADVのドラマ性はありつつも淡々と進んでいく物語が好きなのですが、キャラデザはじめこのゲームはそういった作品の良い意味でのドライさを受け継いでいて好きでした。シナリオライターがJBハロルドシリーズの人らしく納得。

ハイドが1時間にひとりのペースでほとんど初対面の人々の過去を掘り起こしていく話なのでリアリティはないのですが、個人的には「ドラマだし」の範疇で流せました。客の間に因縁がありすぎる理由もそれなりに用意されてるし。

作中の時系列もわかりやすく、メモ取らなくても把握できるレベル。シンプル過ぎて腑に落ちない箇所もあるにはある。私がナイルの関係者なら絶対ルイスは始末してると思う。

浅い時間の本題と関係の薄いメンバーから徐々に事件の核心に近づいていく流れは見事でした。ジェフ・「エンゼル」などの引っ掛けもありつつ、タイトルの「天使の記憶」にも数通りの意味が込められていて丁寧だった。

どこ探せばいいのか詰まる以外は中だるみもなかったです。次にとる行動のヒントを見返せないので好きな時に中断しづらいとか歩くの遅すぎとか操作性の悪さは気になった。

タッチペンやDSの機能を使ったミニゲームは道中はやることもわかりやすいし単純なんですが(DS畳む仕掛けは斬新だった)、地下室だけ難易度が跳ね上がって驚いた。一度も気絶せずにルイスに迎えに来てもらえた人いるのかというレベル。豆知識本のハサミをアルミホイルで研ぐくだりにまんまと引っかかって3回ぐらいやり直しました。ここは脱出ゲームとしても結構遊びごたえあったのではないでしょうか。なんであんなド直球な文章入った暗号機がヒントつきで置いてあるんだという疑問はあるけど。

追及パートもラスボスのダニング以外はそこまで難しくなかった印象(と言いつつジェフに1回ダメな大人認定された)。「…うっ」とか「…えっ」という反応に癖があって好きです。


ストーリーは犯罪組織ナイルとそれに関わって闇に消えた数名の人々を中心としていて、よく考えると結構エグい出来事もあったりしますが、基本的には多くの人間関係が親子愛や家族愛をテーマにしていて消化しやすかったです。袖の下もらいまくりの親父に反感を持って家の金持ち出したジェフに対するアドバイスが「自活したら父親も心変わりするかも知れない」なのはどうかと思いましたが、ダニングとローザのエピソードはそれぞれ程よいエモさとドライさがあってやってて心地良かったです。ただ家族至上主義が好きじゃないのであと一件二件ぐらいは関係ないテーマがあって欲しかったとも思う。

ブラッドリーはもちろんグレイスやアランも行方不明のままだし正真正銘ハッピーエンドだった人は本当に少なかった。ハイドが頑張ったってやれることには限界があるけど、最善の結果が得られなくても人間は生きていかなければならない。でもホテル・ダスクでの交流によって宿泊客の人生への姿勢は確実に前向きになる…という結末は地に足がついていて私は好きでした。その中で唯一前向きになれない人がハイドなので本作だけ見ると気の毒ではあるのですが、それも作品に重層性を与えていると思います。


このシリーズの1番の萌えキャラは主人公といわれるように、明らかにダメ人間なんだけど情に厚くカッコいいところも見せ意外に茶目っ気もある…という人間味満載のハイドは魅力的でした。最初にメリッサと喋ってるときはこのままゲームオーバーになるんじゃないかレベルで怒鳴っててどうなることかと思ったけど、話が進行していくにつれてハイド本人も柔らかくなっていった印象。最後のロビーでのルイスとの会話が好きです。

他のキャラもみんな魅力的。

先ほど淡々とした話運びだと書きましたが、人物ひとりひとりの心情や動機は丁寧に語られていて、最終的には憎めない存在だと思えるようになっています。個人的には頭は良くないけど陽気で根の明るいルイスが好きです。

あとこの作品キャラデザが素晴らしくて、ハイドの整ってるんだけど若くはなくて無愛想な顔つきとか、ダニングとローザのいかにも洋画から出てきたようなサイズ感と大雑把な感じをはじめ、(話を進めていく上でふたりとも結構繊細な人だとわかる訳ですが)様々な年齢の男女を見事に描いてると思います。メリッサとミラも他のキャラのデザインとケンカしていないのにしっかり可愛いし、レイチェル・アイリスなどの美人系とも描き分けがされていて本当に上手い。


あと最初に書いたレイチェル派の話。

キャラデザや性格の点で好きなのはレイチェルですが、この物語のヒロインといえるのは間違いなくミラだと思います。元のデザインはもちろん動きも可愛いし、ハイドを慕うようになる理由も説得力がある。

ただ、真エンドの前提となるのが人口呼吸なので「お持ち帰りエンド」とか言われてるみたいですが、個人的にはあんなに大人であることや硬派であることにこだわるハイドが19歳(精神年齢は10歳)の女の子に手を出すのが考えられない…というかミラがハイドを頼るしかない状況で彼女をモノにしたらガチでドン引きです。これを書いてる時点で既にラストウィンドウをやってるのも影響してるけど、ハイドがミラを大切に思うのはあくまで保護者の立場からであってパートナーとしてではないと思う。

レイチェルも推理ADVの補佐役としてはテンプレ造形ではありますが、彼女と話すときのハイドの微妙に緩んだ空気とかこなれた相棒感が個人的にめっちゃ好きなのでなんとかうまいこといって欲しい。この辺りはミラとの信頼関係も含めてラストウィンドウで強化されてるのでそっちの感想で熱く語りたいと思います。本作に触れてるサイトでレイチェルをストーカー呼ばわりしてるところがありましたが電話の内容はほとんどエドからのお知らせとか調べものの結果だからな! 用もないのにかけてきたのは1回だけですよ。回数が異常なのは認める。

ハイドが1時間おきにブラッドリーに心の中で話しかけるのを欠かさないことを考えると本作ではそもそもミラにもレイチェルにも勝ち目はないのではという気もする。ハイドとブラッドリーの過去の話とか読んでみたい。


私が7〜80年代のアメリカ文化や淡々とした展開を非常に好んでいるのもあって、気軽に骨太なストーリーを楽しめる良いゲームでした。次は続編のラストウィンドウです。